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本文: 外国知的財産制度に関する調査研究報告 | 経済産業省 特許庁

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(1)

特許庁委託

平成

24

年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業

知的財産と遺伝資源の保護に関する各国調査研究

報告書

平成

25

2

一般社団法人

日本国際知的財産保護協会

(2)
(3)

用語集

ABS アクセス及び利益配分(Access and Benefit Sharing)

注)CBD公定訳ではAccessは「取得の機会」とするが,本報告書では

できる限り「アクセス」を用いる。

biological 「生物」又は「生物学」とする

CBD 生 物 の 多 様 性 に 関 す る 条 約(生 物 多 様 性 条 約)(Convention on

Biological Diversity)

COP CBD 締約国会議(Conference of Parties)

COP4 第4回CBD 締約国会議

COP5 第5回CBD 締約国会議

COP6 第6回CBD 締約国会議

COP10 第10回CBD 締約国会議

COP11 第11回CBD 締約国会議

folklore フォークロア(地域コミュニティや特定の民族 によって創作され伝承

されてきた有形無形の文化資産)

GR 遺伝資源(Genetic Resources)とは,「現実の又は潜在的な価値を有する

遺伝素材」とCBDで定義されている。本報告書では,遺伝資源,GR

又はその両方の併記をする場合がある。

ICNP CBD 締約国の政府間委員会

ICNP-1 第一回CBD 締約国の政府間委員会

ICNP-2 IGC

第二回CBD 締約国の政府間委員会

WIPO 知的財産と遺伝資源,伝統的知識及びフォークロアに関する政

(4)

indigenous CBDの公定訳上,「indigenous people」は,「原住民」が使用されてい

るが,本報告書では「先住民」を使用する。また,「indigenous material」,

「indigenous plant」など,物を指す場合,本報告書では「固有」とす る。

IR 国際的枠組み(International Regime)

LMMC メガダイバース同志国グループ

(生物多様性に富む17か国からなるグループ)

MAT 相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms)

PCT 特許協力条約(Patent Cooperation Treaty)

PIC 事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent)

PLT 特許法条約(Patent Law Treaty)

TCE 伝統的文化表現(Traditional Cultural Expression)。本報告書では,伝

統的文化表現,TCE又はその両方の併記をする場合がある。

TK 伝統的知識(Traditional Knowledge)。本報告書では,伝統的知識,TK

又はその両方の併記をする場合がある。

TM 伝統医薬(Traditional Medicine) TRIPS協定

WIPO

知 的 所 有 権 の 貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定(Agreement on

Trade-related Aspects of Intellectual Property Rights)

世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization) WTO

WTO/TRIPS

(5)

はじめに

近年,知的財産と遺伝資源の保護を巡っては,WIPO,WTO,CBD など複数の国際的

フォーラムで議論されている。その背景には,途上国が,先進国企業によるバイオパイラ シーへの懸念を念頭に,特許出願における遺伝資源及び関連する伝統的知識の出所開示を

義務化し(以下,「出所開示要件」という),違反に対しては出願の拒絶,特許の無効などの

制裁を加える国際的保護制度の創設を強く主張していることがある。

WTOにおいてはドーハ閣僚宣言で,TRIPS協定関連の項目として「TRIPS協定とCBD

の関係」が実施問題として位置付けられて,議論されることになり,途上国から,出所開

示要件を導入するTRIPS協定改正提案がなされた。

また,WIPOにおいては2000年にIGCが設置され,出所開示要件を主要な論点としつ

つ,日本提案である特許審査用の遺伝資源データベース構築提案,EU による途上国に譲

歩した提案(違反した場合の制裁を特許制度の枠外で課すことを条件として出所開示要件

を許容)などを含め,種々の議論が展開されている。しかし,知的財産と遺伝資源の保護に

関しては,出所開示要件の義務化を求める途上国と消極的な先進国の間での意見の隔たり は大きく,議論は平行線を辿っている。

このように,先進国・途上国の意見の隔たりによって議論が進まず,遺伝資源について

の実体条項は作成されてこなかったが,2011年のWIPO 一般総会で決定されたマンデー

トに基づき2012年2月に開催された第20回IGCにおいて,これまでの種々の提案が統

合され,実体条項を含む「単一テキスト」が作成された。

数年前までは,出所開示要件を導入している国は数えるほどであったが,上述の国際的 な議論と呼応するように,この数年の間に同制度を国内に導入または導入に向けた検討を 進めている国の数は増加してきている。こうした中,各国の制度及び動向を把握すべく今

回の調査を実施したが,調査の結果,「出所開示制度」といっても,その根拠法は特許法や

生物多様性法など様々で,開示の範囲,開示手続,違反に対する罰則等も各国で異なり, 国により多様な制度が構築されていることが明らかになった。

本報告書が,国際的な産業財産権制度の整備に向けた施策に多くの示唆を与えるものと なることを願っている。

最後に,ご協力いただいた各国の企業等,法律事務所,知的財産専門家の方々に心から お礼を申し上げたい。

平成25 年2 月

(6)

ワーキンググループ名簿

(敬称略)

(1) 座長

熊倉 禎男 中村合同特許法律事務所 弁護士

(2) アドバイザー

炭田 精造 一般財団法人バイオインダストリー協会 技術顧問

上田 浩史 日本知的財産協会医薬・バイオテクノロジー委員会 委員長

(大塚製薬株式会社 知的財産部 課長)

森岡 一 国立遺伝学研究所知的財産室 ABS対策チーム チームリーダー

(3) ワーキングメンバー(五十音順)

池上 美穂 三枝国際特許事務所 弁理士

梅田 慎介 大野総合法律事務所 弁理士

最首 太郎 独立行政法人水産大学校 講師

隅藏 康一 文部科学省科学技術政策研究所 総括主任研究官

田上麻衣子 東海大学法学部 准教授

中濱 明子 ユアサハラ法律特許事務所 弁理士

藤田 節 平木国際特許事務所 弁理士

三宅 俊男 特許業務法人津国 弁理士

(4) オブサーバー

嶋田 研司 特許庁総務部国際課 課長補佐(平成24年10月22日まで)

藤田 和英 特許庁総務部国際課 課長補佐(平成24年10月15日より)

横田 之俊 特許庁総務部国際課 国際機構第一係長

(5) 事務局

川上 溢喜 一般社団法人日本国際知的財産保護協会国際法制研究室 室長

曹 勇 一般社団法人日本国際知的財産保護協会国際法制研究室 主任研究員

(7)

ご協力いただいた法律事務所

中国 北京銀龍知識産権代理有限公司 台湾 WENPING & CO.

インド Anand and Anand

コロンビア OlarteMoure

ブラジル Licks Advogados

南アフリカ Spoor & Fisher

ドイツ VOSSIUS & PARTNER

スイス Isler & Pedrazzini AG

フランス CABINET PLASSERAUD

米国 Sughrue Mion, PLLC.

英国 J A Kemp

(8)

はじめに

ワーキンググループ名簿

第Ⅰ部

調査研究の概要

1.1 調査研究の目的 ……….. 1

1.2 調査対象国 ……….. 2

1.3 調査項目 ………. 4

1.4 調査の方法 ……….. 6

第Ⅱ部

遺伝資源の出所開示問題に関する考察と提案

……….… 10

第Ⅲ部

国際会議における議論の状況

3.1 WIPO ………... 17

(1)IGC第19回会合(2011年7月) (2)一般総会(2011年9月) (3)IGC第20回会合(2012年2月) (4)一般総会(2012年10月) 3.2 WTO ……….... 24

(1)TRIPS理事会(2010年) (2)TRIPS理事会(2011年) 3.3 CBD ………... 28

(1)COP6:ボン・ガイドライン(2002年10月) (2)COP10:名古屋議定書の採択(2010年10月) (3)ICNP(ICNP-1,ICNP-2) (4)COP11:インド・ハイデラバード(2012年10月)

第Ⅳ部

各国の出所開示の制度・運用・実施状況

4.1 アンデス共同体 ………...…….. 35

4.2 ペルー ………. 42

4.3 ボリビア ………. 49

4.4 コロンビア ………. 55

(9)

4.6 ブラジル ………. 63

4.7 コスタリカ ………. 76

4.8 パナマ ………. 82

4.9 ベネズエラ ………. 95

4.10 EU ...……..….………. 100

4.11 ベルギー………..…. 104

4.12 デンマーク ………. 109

4.13 ドイツ ………. 115

4.14 イタリア ………. 119

4.15 ノルウェー ………. 122

4.16 ポルトガル ………. 126

4.17 ルーマニア ………. 132

4.18 スウェーデン ………. 134

4.19 スイス ………. 136

4.20 ニュージーランド ……….. 143

4.21 中国 ………. 148

4.22 インド ………. 155

4.23 キルギス ………. 172

4.24 フィリピン ………. 177

4.25 タイ ………. 181

4.26 エジプト ………. 184

4.27 南アフリカ ………. 187

第Ⅴ部

アンケート調査

5.1 出所開示要件の法制度の有無等調査………... 204

5.2 海外質問票調査(5か国)………... 207

第Ⅵ部

出所開示要件に対する企業等ヒアリング調査

6.1 国内ヒアリング調査 ………... 227

6.2 海外ヒアリング調査 ……….. 234

第Ⅶ部

添付資料

7.1 知的財産と遺伝資源の保護をめぐる国際的議論概括表.….………... 242

7.2 出所開示要件の制度・運用・実施状況概括表………. 248

(10)

第Ⅰ部

調査研究の概要

1.1

調査研究の目的

平成 24 年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業は,産業財産権制度を経済・社会

の変化,特に国際化の急速な進展に適応させるために,一歩先を予測して制度に影響を与

えると考えられる諸問題を採り上げ,これに関する世界の主要各国の現状と動向を調査し,

併せて,現在の世界の制度に対して,国際調和の観点からより望ましい制度を実現させる ための施策作りの資料とすることを目的としている。

本調査研究は,遺伝資源の出所開示要件を中心として,27か国・地域について基本的調

査を実施し,その中から5か国を選定して実態調査を行い,さらに資源を利用する観点か

ら,先進国5か国のヒアリング調査を実施するとともに,国際会議における議論の動向も

把握しながら,各国の動向を整理・分析したものである。

なお,本報告書では,ブダペスト条約に基づいて寄託番号を開示することを除き,発明 に利用した遺伝資源について,①出願書類に原産国又は提供国を記載すること,②事前に

アクセス承認機関の出願許可書を添付すること,又は③出願時に CBD に基づく PIC と

MATの証明書を提出することによる開示を「出所開示」とした。

また,特許出願時にGR及び関連するTKの出所開示を義務化し,違反に対しては出願

(11)

1.2

調査対象国

(1)遺伝資源の出所開示要件の実施・運用状況の調査

【文献調査】 27か国・地域

アンデス共同体(ペルー,ボリビア,コロンビア,エクアドル),ベルギー,ブラジル,

中国,コスタリカ,デンマーク,エジプト,EU,ドイツ,イタリア,インド,キルギ

ス,ニュージーランド,ノルウェー,パナマ,フィリピン,ポルトガル,ルーマニア, 南アフリカ,スウェーデン,スイス,タイ,ベネズエラ

(2)出所開示要件の法制度の有無調査(計109か国・地域)

【アジア地域】18か国・地域

インドネシア,カンボジア,シンガポール,スリランカ,韓国,ネパール,パキスタン バングラデシュ,東ティモール,ブータン,ブルネイ,ベトナム,マレーシア,ミャン

マー ,モルディブ,モンゴル ,ラオス,台湾

【アフリカ地域】52か国

アルジェリア,アンゴラ ,ウガンダ ,エチオピア ,エリトリア ,ガーナ,カーボヴ

ェルデ,ガボン,カメルーン,ガンビア,ギニア,ギニアビサウ,ケニア,コートジボ ワール,コモロ,コンゴ共和国,コンゴ民主共和国,サントメ・プリンシペ,ザンビア, シエラレオネ,ジブチ,ジンバブエ,スーダン,スワジランド,セーシェル,赤道ギニ ア,セネガル,ソマリア,タンザニア,チャド,中央アフリカ,チュニジア,トーゴ, ナイジェリア,ナミビア,ニジェール,ブルキナファソ,ブルンジ,ベナン,ボツワナ, マダガスカル,マラウイ,マリ,南スーダン,モザンビーク,モーリシャス,モーリタ ニア,モロッコ,リビア,リベリア,ルワンダ,レソト

【大洋州】14か国

オーストラリア,キリバス,クック諸島,サモア,ソロモン諸島,ツバル,トンガ,ナ ウル,バヌアツ,パプアニューギニア,パラオ,フィジー,マーシャル,ミクロネシア

【中南米】25か国

アルゼンチン,アンティグア・バーブーダ,ウルグアイ,エルサルバドル,ガイアナ キューバ,グアテマラ,グレナダ,ジャマイカ,スリナム,セントビンセント及びグレ ナディーン諸島,セントクリストファー・ネーヴィス,セントルシア,チリ,ドミニカ

国,ドミニカ共和国 ,トリニダード・トバゴ,ニカラグア,ハイチ,バハマ,パラグア

(12)

(3) 出所開示要件に対するアンケート調査とヒアリング調査

【海外アンケート調査】5か国

ブラジル・コロンビア・インド・中国・南アフリカの各国の法律事務所

【国内ヒアリング調査】

15の企業等

【海外ヒアリング調査】5か国

(13)

1.3

調査項目

(1)知的財産と遺伝資源の保護をめぐる国際的議論の動向調査

調査項目 調査内容

WIPO

(1)IGC第19回会合(2011年7月)

(2)一般総会(2011年9月)

(3)IGC第20回会合(2012年2月)

(4)一般総会(2012年10月)

WTO

(1)TRIPS理事会(2010年)

(2)TRIPS理事会(2011年) CBD

(1)COP6(2002年10月)

(2)COP10(2010年10月)

(3)ICNP(ICNP-1,ICNP-2)

(4)COP11(2012年10月)

WIPO,WTO,CBD等の国際機関・多国間

交渉における議論 ・経緯と現状

・各国のそれぞれのポジションと主張 ・具体化した個別提案等を調査する

(2)出所開示制度・運用・実施状況等の詳細調査

【文献調査】27か国・地域

調査項目 内容

遺伝資源の出所開示に関する法制度 ・条文,定義,目的

・開示事項

・違反への措置・制裁

・遺伝資源へのアクセス機関と承認手続

出所開示要件の実施・運用状況(知財庁

やアクセス承認機関における審査の運

用・手続き,ガイドライン等の調査)

・機関の名称と位置づけ ・組織構成

・アクセスの承認,特許出願の承認手続 ・承認処理件数実績

実態調査 ・出所開示を伴った特許出願の件数

・出所開示要件違反とされた件数 ・個別事件の経議等

・企業の開制度への対応や意見,同制度導入

に伴う資源提供国・保有者,資源利用者(企

(14)

(3)出所開示要件の法制度の有無等調査

上記(2)の調査対象国(27 か国・地域)以外のアジア,アフリカ,大洋州,中南米の国に

ついて,文献調査により可能な範囲で出所開示要件の法制度の有無を調査した。

(4)出所開示要件に対する海外アンケート調査

【調査項目】

・遺伝資源の出所開示を伴った特許出願件数,及び特許出願をするために必要なアクセ ス承認の申請件数と実際の承認件数

・出所開示要件に違反した特許出願の事例(拒絶又は無効とされた事例)の概要

・出所開示要件を導入したことにより,その目的である遺伝資源の保護や ABS の確保

に対して,改善効果に対する具体的な評価 ・出所開示要件の導入に関する感想

・遺伝資源へのアクセス承認に関して,承認機関が承認を与える判断をする際の基準

・CBDでのABSクリアリング・ハウスの制度の創設に関して,特許法での出所開示制

度への影響

・遺伝資源の保護に関する既存の法制度に対する意見 ・出所開示要件について事務所の意見

(5)出所開示要件に対するヒアリング調査

国内の15企業等,及び海外(米・スイス・フランス・英国・ドイツ)の各国2企業等(合

計10企業等)を訪問して,下記の観点からヒアリング調査を行った。

・「特許出願時の遺伝資源の出所開示制度」に関する考え方

・出所開示をすることによる負担

・出所開示要件における企業活動に与える影響

(15)

1.4

調査の方法

(1)知的財産と遺伝資源の保護をめぐる国際的議論の動向調査

下記WIPO,WTO,CBDのそれぞれのインターネットに公開されたサイトより,会議

の議事録又は報告書を元にして,各国のそれぞれのポジションと主張,個別提案等を調査 した。

http://www.wipo.int/portal/index.html.en

http://www.wto.org/

http://www.cbd.int/

また,議論の経緯については,下記の文献を参考にした。

No 年度 タイトル 出典

1 2010年

遺伝資源と知的財産に関する議論 の動向

独立行政法人工業所有権情報・研 修館(PATENT STUDIES No.50 2010/9)

夏目健一郎

2 2011年 平成22年度環境対応技術開発等(生 物多様性条約に基づく遺伝資源へ

のアクセス促進事業)委託事業報告

財団法人バイオインダストリー 協会

3 2011年 名古屋議定書採択に至るまでの会

議の変遷

財団法人バイオインダストリー 協会

4 2010年

平成 21 年度環境対応技術開発等諸

外国の ABS 国内法に関する調査報

告書

株式会社ノルド 社会環境研究所

5 2010年

知的財産を巡る国際的な議論 ~先鋭化する南北問題

外務省経済局知的財産室

(パテント2010 Vol. 63 No. 13)

伏見邦彦

6 2010年

生物多様性条約における遺伝資源 へのアクセス及び利益配分:現状と 課題

立命館国際研究 22-3

西村智朗

(2)出所開示制度・運用・実施状況等の詳細調査

下記の参考文献又は調査対象国のインターネット公開サイトを利用して,出所開示制 度・運用・実施状況等を調査した。

(16)

ベネズエラ,デンマーク,ベルギー,ドイツ,イタリア,ポルトガル,ノルウェー,スウ ェーデン,中国,キルギス,フィリピン,エジプト,南アフリカにおいて,該当する調査

項目に関して,調査対象国・地域の出所開示要件に関連する知財庁(存在する場合は,アク

セス承認機関)及びWIPO等の国際機関が公開する文書・統計資料,国内外の関連する書

籍,論文,調査研究報告書の文献調査を行うとともに,更に調査項目に関連する複数のキ ーワードを組み合わせてインターネット情報について調査を行ったが,関連する資料を発

見することができなかった場合,「【関連資料発見できず。】」と記載した。

No 年度 タイトル 出典

1 2006年

特許出願時の遺伝資源出所開示及 び遺伝資源アクセス時の事前承認 機関に関する調査研究報告書

社団法人 日本国際知的財産保護

協会(AIPPI・JAPAN)

2 2008年 各国における伝統的知識の保護制

度に関する調査研究

社団法人 日本国際知的財産保護

協会(AIPPI・JAPAN)

3 2010年 ABS 問 題 と 知 財 制 度 へ の 影 響

Q&A)

知財管理Vol60

バイオテクノロジー委員会

4 1997年

Global Genetic Resources: Access,

Ownership, and Intellectual Property Rights (Beltsville Symposia in Agricultural Research)

United States Agricultural Research Service

5 2012年

ICTSD programmer on Innovation, Technology and Intellectual Property

David Vivas-Eugui Anamika,

Innovation Policy Advisors

6 - WIPO Lex http://www.wipo.int/wipolex/en/

(3)出所開示要件の法制度の有無等調査

AIPPIの各国部会を通じて,下記の質問票を送付して,出所開示要件の法制度の有無を

調査した。

Q1:あなたの国は,特許法において,特許出願時,遺伝資源に関する出所開示(或は遺

伝資源へのアクセス許可契約書のコピーの提出)の法制度がありますか?(ブダペス

ト条約に関する特許出願のための微生物寄託の国際機関の認知を除く。)

「 」はい 「 」いいえ

Q2:あなたの国は,特許法以外で,遺伝資源に関する出所開示を求める法制度がありま

(17)

「 」はい 「 」いいえ

Q3:あなたの国・地域において,ABSに関する法制度がありますか?

「 」はい「 」いいえ

Q4:質問③が「はい」の場合,ABS に関する法律はアクセス承認機関にて現在運用さ

れていますか?

「 」はい「 」いいえ

(4) 出所開示要件に対する海外アンケート調査

ブラジル,コロンビア,インド,中国,南アフリカにある法律事務所に下記の質問票を 送付して,調査を実施した。

Q1:貴国における遺伝資源の出所開示を伴った特許出願件数,及び特許出願をするた

めに必要なアクセス承認の申請件数と実際の承認件数を教えてください。分かれ ば,そのような特許出願の出願番号をいくつかお教えください。

Q2:出所開示要件に違反した特許出願の事例(拒絶又は無効とされた事例)の概要(わか

れば複数。),及びその件数を教えてください(こちらも年毎なのか累積なのか明記

をした方が良いかと思います)?

Q3:貴国において出所開示要件を導入したことにより,その目的である遺伝資源の保

護やABSの確保に対して,改善効果はあると評価されていますか。あるとすれば,

それは具体的にどのように評価されていますか。その他,一般的な意味でも貴国や 企業等にとって良い効果があった等の評価や企業等からの声はありますか。そのよ うな評価がない場合,貴事務所としては,これらについてどう考えていますか。

Q4:貴国において出所開示要件を導入したことにより,悪影響があったと評価されて

いることはありませんか。例えば,遺伝資源へのアクセス承認申請件数が減少した, 企業の研究開発やイノベーションの阻害になった,などという評価や,企業からの そのような声はありますか。そのような評価がない場合,貴事務所としては,これ らについてどう考えていますか。

Q5:遺伝資源へのアクセス承認に関して,承認機関が承認を与える判断をする際の基

準は何ですか?

(18)

示制度は不要にすることができますか?

Q7:遺伝資源の保護に関する既存の法制度だけで,十分に機能していると思いますか?

していないとすれば,どのような点が挙げられますか。

Q8:出所開示要件について,貴事務所のご意見を聞かせてください。

(5)出所開示要件に対するヒアリング調査

米国,スイス,フランス,英国とドイツにある法律事務所を通じてそれぞれの国につき

2以上の企業等の紹介を受け,現地の企業を訪問し下記の質問票でヒアリングを実施した。

また国内15企業等に対するヒアリングも,同様の質問票を使用した。

Q1:「特許出願時の遺伝資源の出所開示制度」について,御社はどう考えますか?

Q2:出所開示をすることは負担がありますか?

Q3:実際に出所開示を伴った特許出願を行ったことがあるなしにかかわらず,一部の国

で要求されている「出所開示要件」に対する御社のお考えや同要件が御社の企業活 動に与える影響などについて,お伺いいたします。

(19)

第Ⅱ部

遺伝資源の出所開示問題に関する考察と提案

1

森岡 一 序言

特許における遺伝資源出所開示要件問題が遺伝資源のアクセスと利益配分の一部とし

て議論されている。しかし,知的財産の制度と生物多様性条約の制度はそもそもその目的,

仕組みが異なるので,同じ論点で論じることは困難である。遺伝資源のアクセスと利益配 分に関する具体的な方向性,方針が固まっていない状況下では,リスク管理の観点から特 許の出所開示問題には慎重に対応せねばならず,遺伝資源の産業上の利用が遅延傾向にあ ると考えられる。特許出願企業にとって特許が無効になることは経済的ダメージがあるだ けでなく,資源国などで大々的にバイオパイラシーとして流布されることがあるため,資 源国でのイメージダウンにつながる。このような状況下では,特許を出願する企業にとっ て,遺伝資源を主題とする特許の取り扱いについて慎重にならざるを得ない。

企業が国際的な遺伝資源紛争に巻き込まれ,被害を受ける例があるのも事実である。す

でに医薬品産業分野では 1980-1990 年代に盛んであった微生物から有用化合物を見出す

取り組みが低下・停滞し,保持していた微生物バンクを放棄している。現在でもいくつか の民間企業が微生物遺伝資源へのアクセス事業を行っているが,脆弱な取り組みであり, 明確な政府のバックアップがなければ存続,発展は困難であろうと思われる。一方薬用植 物へのアクセスは健康志向の高まりとともに増加していると思われる。ハーブ,化粧品, パーソナルケア製品等の原料としての遺伝資源の需要が拡大しているが,その原料の安定 調達に問題を抱えているのではないかと推測される。また,薬用植物には伝統的知識と結 びついている場合が多いが,薬用植物の出願特許の新規性について,資源国で作られた伝 統的知識データベースにより攻撃され,特許請求範囲が狭くなるケースが報告され始めて いる。

有限な遺伝資源を有効に活用するためには,『生物多様性条約』(以下CBDと略)に関す

る国際間の問題について早急に方向性を打ち出す必要がある。『生物多様性条約』の根本的

問題は『アクセスと利益配分』である。その解決方法に対して国際的なコンセンサスは名 古屋議定書として得られつつあるが,その議定書を各国で実際に施行されるまでまだまだ 時間がかかる状況である。特に,遺伝資源に関連した伝統的知識の問題は解決の緒につい

たばかりで,いつ実効性のある仕組みができるのかめどは立っていない。『アクセスと利益

配分』について資源国の国内法によって決めることが可能であるので,統一した仕組みに なりにくい可能性がある。この点は特許制度の国際共通化の取組みと異なる方向にあり, 複雑な解釈や手続き問題に発展する可能性がでてくる。

CBD における『アクセスと利益配分』議論を進行させ国際合意を得ることが,遺伝資

源の出所開示問題より先決事項であると考える。『アクセスと利益配分』大枠合意がなけれ

(20)

ば,部分的な課題解決はあまり意味のあるものとは考えられないからである。出願特許で

の遺伝資源の出所開示は,現在CBD以外にWIPO,WTO/TRIPSなどのいくつかの国際

フォーラムで議論されている点も問題であり,それぞれのフォーラムの事情により統一的

な見解が得にくい状況にある。特に米国が CBD に加盟していない点は問題解決を複雑に

している。本来は『アクセスと利益配分』が問題の中心であるため,CBD フォーラムを

通じてあるいはそれに協調して同時並行的に出所開示問題解決に取り組むべきであると考 える。

(1)特許法の本来的意義からの課題と考察

特許の基本思想は,発明者による発明情報の開示との引き換えに発明者に排他的な権利 を付与することである。したがって,遺伝資源の出所開示を行うことにより発明者にどの ような利益がもたらされるのか明確にしなければならない。出願特許で開示された遺伝資 源へのアクセス権が優先的に特許権者に付与されるということはない。利益配分の減額等 の優先的条件が保証されることもない。おそらく,単に特許の将来紛争の防止策としての 意味しかないであろう。特許法の基本である情報開示によるインセンティブはないと考え るのが妥当である。つまり,遺伝資源の出所開示は特許法における義務ではなく,遺伝資 源の提供国の利益確保のために先進国の特許制度に組み込む制度と考えられる。特許権者 の利益を犠牲にして遺伝資源の提供国の利益を守ることしか意味をみいだせないのではな いか。遺伝資源のひとつである微生物そのものを特許とすることが認められているが,微

生物特許による独占的権利を得るために,ブダペスト条約に基づく微生物寄託制度があり,

特許微生物の開示(寄託)が義務化されている。これは,特許の再現性を確保するという目

的のために行われており,微生物の出所開示が目的ではない。遺伝資源の出所開示義務に 対する特許出願人のインセンティブが明確にならない限り,義務だけを負うことは一方的 であり出願の意欲を失わせ,発明を公開しない方向に向かわせる可能性がある。

遺伝資源の出所開示は特許性(新規性,進歩性)判断に直接的な影響はないと考えられる。

出願特許には再現性確保のため発明の詳細な記述が記載要件であるが,遺伝資源の出所開 示がはたして発明の詳細な記述にあたるとは考えにくい。たとえば,ある国から採取した 植物に含まれる物質を特許出願した場合,当該植物の出所がわからなくても発明を再現で きる。むしろ,発明に用いられた遺伝資源の状況例えば植物なら生育状況などの開示のほ うが遺伝資源の出所開示より発明の再現には必要である。

特許出願時に遺伝資源の出所開示を行わなかった場合,スイスや資源国の多くは罰則と して特許拒絶するという条項を設けている。特許拒絶は行き過ぎであるといわざるをえな いし,発明者の特許出願の意欲を削ぐ効果しか生まないと思われる。ヨーロッパの多くの 国では,出所開示違反は特許性自体に影響しないという現実的な条項になっている。これ

はヨーロッパ各国では国内出願より EPO 出願が多いため,出所開示を伴う出願がほとん

どないという現実があり,単に制度を整えたという意味合いしかないためであり,現実的 な実態として出所開示は『不知』ということになるのではないかと思われる。

(21)

査を行なうとすればおそらく CBD を管理監督する環境省で行なうことになるが,特許出 願情報を公開前に知り得ることになり問題である。また,出所開示審査に不服の場合,特 許庁に審判を請求しても審判も行なえない。出所開示を審査したところに審判請求する制 度がなければ,一方的な判断しかなされないことになり,出願者に不利になる。

遺伝資源を利用することが特許の成立に不可欠であることが明白である場合は問題な いが,遺伝資源に付随する情報が副次的な位置づけである場合,どこまで表示するか判断 が困難である。例えば,ある国で分離された微生物が作る酵素の遺伝子配列情報から,遺 伝子増幅法を使って別の国の土壌微生物から類似の機能を持つ新規酵素を取得した場合な どは両方に利益配分を行なうのであろうか。ある資源国で採取した植物から有用物質を見 出して特許出願したが,その物質は日本国内で入手可能な別の植物からも得ることができ るので,実際の工業生産品は日本国内あるいは第三国で栽培,生産した植物から得ている 場合,工業生産販売から利益を得ているのは日本国内の遺伝資源であるので最初の資源国

に利益配分は必要ないのではないかと考えるが,資源国の意見は異なるであろうか。植物,

微生物の場合,遺伝子工学によって工業生産向けの植物,微生物を創生することは可能で ある。このように遺伝資源の出所が不明瞭になる場合が多いので,多くの企業では独自の 対策をとっている。入手した遺伝資源をデータベース化しているところが多い。共同研究 などで研究機関やベンチャー等からの菌株の受け入れる場合,出所不明の株が含まれる場 合は事前に受け入れ拒否するという対策もある。

TRIPS にある特許の公平性と整合がとれないという疑問がある。TRIPS協定27 条(1)

によれば,特許に関して技術分野で差別することなく特許権が与えられ,特許権が享受さ れると規定している。遺伝資源の出所開示要件が満たされないからといって特許権を無効

にするのは特許の公平性に欠けTRIPS協定27条(1)に反することではないかと考える。

(2)伝統的知識の出所開示に関する課題と考察

食品や健康に関連した伝統的知識は必ず存在する。逆に食した経験のない未知のものは 食品として日本では認められない。毒のあるものさえ長年言い伝えられている。日本でも

『匠の技』といった伝統に基づいたいわゆる秘密性の高いノウハウといわれるものがある。

しかし特許制度上,これらの伝統的知識が特許の成立要件である新規性,進歩性,産業上

の利用可能性を満たすことは困難であり,あくまでノウハウとして伝承されるものである。

伝統的知識の保持者の中にその知識を開示することを拒否するものも多い。伝統的知識を 開示すればもはや伝統的知識ではないと考えるからである。伝承されるノウハウはあくま で開示できないものであるので,伝統的知識の出所開示を特許出願で求めても,伝統的知 識の秘密性から開示できない場合が多いのではないかと考える。したがって,伝統的知識 を現行の特許法で保護するのは困難なので,新たな仕組みを考える必要がある。

(22)

ベースを利用した場合,出所開示要件とするのではなく,単なる引用文献として取り扱う べきである。データベースにある伝統的知識が唯一正統なものであるという保証はなく, 多くのバリエーションが存在することも容易に推定できる。また,類似性のある伝統的知 識が国をまたがって存在することはよく知られた事実である。伝統的知識の出所開示を審 査する場合,開示された伝統的知識が正当であるかどうかを画定することは相当な困難を 要することである。

遺伝資源に関連した伝統的知識の出所開示を義務化した場合,伝統的知識が関連する先

行文献として扱われ特許性(新規性)の否定につながる紛争が多くなることが予想される。

現在でも出願特許が伝統的知識により特許性を否定される場合が欧米の特許庁審査で散見 されているし,今後は伝統的知識に基づく特許無効請求が増加すると予想される。伝統的 知識により,ある程度の特許が無効になるのはしかたがないとしても,あいまいな伝統的 知識により攻撃され多くの特許が無効になる事態は発明者に特許出願の意欲を減少させる

ことになる。したがって,遺伝資源に関連した伝統的知識と特許性(新規性)の関係につい

てより明確な審査基準が必要になることを付記したい。

以上のように,遺伝資源に関連した伝統的知識に対するアクセスと利益配分に合意され た考え方がない以上,伝統的知識の出所開示だけ突出して特許法の中で要件とすることは できない。

(3)特許管理上の課題と考察

遺伝資源の出所開示義務により特許権が不安定になり,権利行使が困難になるし,権利

無効のリスクも高くなる。出所開示内容の正当性を評価するルールが決まっていないため,

正当性が確認されるまで特許は認められないのかという疑問もある。特許出願で遺伝資源 の出所開示がなされていても,特許庁審査でその記載が正しいかどうか判断することは現 状では不可能であると思われる。したがって,その正当性判断材料を出願者に要求するこ とが多くなるのは明らかである。遺伝資源の出所開示を争点として特許無効紛争が起こっ たとき,遺伝資源の出所開示が正統であることを証明し特許権を防御する手段は少ない。 遺伝資源の出所開示を巡る特許無効裁判が起こされる場合,訴える側は主として提供国関

係の利害関係者である場合が多いので,PICを取得したとしてもそれは正統でないと主張

される恐れも高く,それを覆す手段はない。さらに,遺伝資源に関連する伝統的知識の場 合,関連あると主張する権利者が多数出現し利益配分を求めるため,収拾がつかなくなる 可能性が高い。出所開示付きの特許出願をしたため,企業の社会的責任問題にまで発展す る可能性も考えなくてはならない。

アクセスと利益配分は本来当事者間個別の契約問題,個別対応が本来のあるべき姿であ る。契約は自由意志に基づくもので,その内容は営業秘密に属する。したがって,特許出 願判断する場合,遺伝資源の出所という秘密条項を開示してまで特許出願を行うか,契約

の秘密性を重視するかという判断がされなければならない。特許出願で独占権を得るより,

(23)

(4)特許出願実務上の課題と考察

特許出願実務上からの考察は細部になりすぎ,全体の枠組み合意によって大きく変わる 可能性があるので,ここでは課題となる項目についてのみ考察する。しかし,遺伝資源を 利用する研究と開発を行っている企業では,遺伝資源特許の出願に伴うさまざまな問題に 現在でも対処していることは事実である。企業では社会的コンプライアンスを基本として いるところがほとんどであるので,出所開示に必要なアクセス許可を入手するのも特許担 当者を中心に研究者,企画部門等を巻き込んで実践的な取り組みを行っている。しかし, 企業単独では提供国政府との対応には限界がある。やはり企業個別の取り組みを業界レベ ルあるいは国レベルに格上げし拡大して,産業界や国としての姿勢を明らかにすることが 問題解決の端緒となると考える。産業界全体あるいは国レベルでの取り組みは特許法の正 しい運用を基本とした統一した考え方を示すことになり,遺伝資源の提供国に対しても影 響力を発揮することが可能となる。

遺伝資源を含む特許を出願する際の実務上の課題として,出願特許に含まれる個々の遺 伝資源の定義をどのように考えるかが最も重要な問題となる。現在でも遺伝資源の定義が あいまいであるため,個別の遺伝資源の出所をどのように考えるか出願前に議論しておく

ことが重要である。特に,企業では遺伝資源を提供国内の市場で購入する場合が多いので,

コモディティの考え方を持つ場合が多い。しかし,デンマークの特許法では,市販の遺伝 資源であっても出所開示が要求される。採取地は明確であるとしても原産地はどのように

考えるか,『不知』の場合,どのような方法でそれを証明するかあらかじめ企業としての考

えを持っておかなければならない。採取地との約束により開示できない場合などさまざま

な事情により出所開示ができない場合がある。その場合,『不知』で押し通すリスクをとる

か,出願をあきらめノウハウとするかの判断が常に求められる。

すでに特許法で出所開示を要件としている国に出願を予定する場合,開示要件が異なる 場合があるので注意を要する。また,開示要件の解釈もそれぞればらばらであるので,現 地の特許事務所と現在の解釈がどのようにされているか相談することが求められる。例え

ば,中国の専利法第26条第5項では直接的由来と原始的由来の両方を開示することを要

件としているが,原始的由来についてどのように審査側が解釈しているか情報を入手しな ければ,対処の仕方がわからない。

特許出願時の遺伝資源提供国ではなく別の国で薬用植物を大規模に栽培する場合は多 い。特許に開示された国と実際の採取国が異なるが,利益配分は特許に書かれた提供国に 支払われることになる。この場合,実際の大規模栽培国に利益配分がないのは合理的では

ないと考える。しかし,大規模栽培国とはPICやMATを結んでいないので,全く利益配

分義務がないのも事実である。

(5)出所開示問題のゆくえ

(24)

手段で遺伝資源問題を取り上げられると企業イメージが低下し,風評によって遺伝資源の 提供国でのビジネスに大きな影響を及ぼすことはいくつかの例でこれまで報告されている。 今後も同様の問題が起こる可能性があると考えられる。これは,日本企業の海外進出を阻 害する大きな要因になるであろう。一旦風評被害を受けた場合,その修復は容易なことで はなく,信頼回復まで相当の日数を要することを覚悟しなければならない。

このような事態を避けるため,企業では注意深く出所開示問題に対処している。特に研 究者から遺伝資源や伝統的知識を用いた発明の相談を受ける特許部では,出所開示という 重荷を背負うことになり,相当デリケートな解決を求められる。企業が国際的な遺伝資源 紛争に巻き込まれ,被害を受ける例が報告され始めているのも事実である。そのため,企 業ではリスク管理の観点から慎重に対応しなければならず,遺伝資源の産業上の利用が遅 延傾向にあるといわざるを得ない。例えば,薬用植物へのアクセスは健康志向の高まりと ともに増加しており,ハーブ,化粧品,パーソナルケア製品等の原料としての遺伝資源の 需要が拡大しているが,それらの遺伝資源を用いた発明について出所開示要件のために特 許出願を躊躇したり,出願放棄したりすることがすでに現実問題となっていると推測され る。

有限な遺伝資源を有効に活用するためには,生物多様性条約に関する国際間の問題につ いて早急に方向性を打ち出す必要があろう。生物多様性条約の根本的問題はアクセスと利

益配分であるが,その解決方法に国際的なコンセンサスを得るのはまだまだ時間がかかる。

アクセスと利益配分議論を進展させ国際合意を得ることが遺伝資源出所開示問題より先決 事項であると考える。

アクセスと利益配分の枠組みが明確になっていない状況で,特許の記載要件という問題

の一部を解決しても全体の枠組みには影響が少ない。基本的には CBD フォーラムの中で

利益配分の枠組みと同時に解決をはかるべき課題である。遺伝資源の提供国は出所開示問 題を突破口にアクセスと利益配分問題を有利に解決したいと考えるのであろうが,全体の 枠組みの不確定の中で突出した部分解決は無意味であり,全体の枠組みが変われば遺伝資 源の出所開示の仕組みも変えざるをえない場合もでてくる。

いままで個別に行なわれていたCBDフォーラムとWIPOフォーラムが,共同で遺伝資源

の出所開示に関するガイドライン作成する試みに賛成する。特許法の体系整備の前に,当 事者間でのコンセンサスの醸成とインフラストラクチャの整備が必要であると考える。特 にインフラストラクチャの整備については,特許記載要件と切り離して独自にかつ早急に

検討すべき問題である。EUのレギュレーション案では,遺伝資源アクセスを議論する『プ

ラットフォーム 2』の形成を提案しているが,その中で特許機関も交えて出所開示を議論

することが望ましいと考える。さらにこのような組織を発展させ,遺伝資源の出所開示の 正確さを審査・認証する国際的な機関の確立がまず第一歩として必要であろう。

特許無効という罰則付き要件を指向するよりも,公正で確実性のある出所証明の方法を

2 European Commission; Brussels “Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN

PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on Access to Genetic Resources and the Fair and Equitable Sharing of Benefits Arising from their Utilization in the Union“ ,October 4,2012 ,

(25)

確立することが原則である。そのなかで,遺伝資源の出所開示の正しさを証明する一手段

として,特許に使われた遺伝資源のDNAサンプルの寄託も必要となってくるであろう。

さらに,遺伝資源のDNA指紋を用いる方法など確実性の高い同定方法も検討すべきであ

(26)

第Ⅲ部

国際会議における議論の状況

3.1

WIPO

経緯と現状

1999年の特許法常設委員会(SCP)におけるコロンビアの提案により,WIPOの2000年

総会においてIGCの設立が合意された。

IGCは,2001年5月に第1回の会合を開催してから,概ね二年ごとにマンデートを更

新することとなっている。これまで,知的財産と遺伝資源の保護に関しては,出所開示要 件の義務化を求める途上国と消極的な先進国の間での意見の隔たりは大きく,議論は平行 線を辿っている。

2009年にマンデートを更新してから2011年までの第15~19回IGC会合では,遺伝資

源等の効果的な保護を確保する国際的な法的文書のテキストについて合意に達することを 目的として,テキストベースの交渉を行うことがマンデートの主要な部分となっていた。

第19回IGC会合においては,主に①国際的な法的文書のテキストの合意を目的とした

テキストベースの交渉を促進すること,②遺伝資源をテーマとする第20回IGC会合を開

催すること,及び③2012年の総会に国際的な法的文書のテキストを提出することが,マン

デート更新案として纏められ,同更新案が第49回総会(2011年)に提出され,承認された。

第 20回IGC 会合では,「目的,原則,将来の作業のオプション,実体条項」を統合し

た単一テキストが作成され,第50回総会(2012年)に提出された。第50回総会では,GR,

TK及びTCE/Folkloreの効果的な保護を確保するために,今後も集中交渉を継続していく

ことが合意された。

(1)第19回会合(2011年7月)

ア)会議の概要3

IGCでは,総会において決定されたマンデートに従って活動が行われており,この

マンデートは,概ね2年ごとに更新されている。2011年第19回IGC会合まで合意

されたマンデートは,①遺伝資源等の効果的な保護を確保する国際的な法的文書のテ キストについて合意に達することを目的として,テキストベースの交渉を行うこと,

②次期マンデートの2年間に4回の会合と3回の会期間作業部会(以下,IWGという。)

を開催すること,③外交会議の開催(開催するか否かもオープン)については,2011年

3 特許庁の公表資料「第5 国際知的財産交渉の諸フォーラムにおける動向」を引用して構成し,補足を付

け加えたものである。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/tripschousahoukoku/23_5.pdf(最終アクセス日:2013年2

(27)

の加盟国総会で決定すること等である。

2009年のマンデート更新から2011年までに第15~19回IGC会合及び3回のIWG

が開催され,伝統的知識及び伝統的文化表現については実体条項を中心にテキストベ ースの議論が行われた。遺伝資源については,議論の元となる政策目的・一般条項・ 実体条項の揃ったテキストが存在しておらず,目的・原則及び今後の作業のオプショ ンについて議論されるのみであった。

2011年の総会前最後の開催となる第19回IGC会合においては,マンデート更新案

について議論が行われた。外交会議の開催には,テキストは未成熟であるとの共通認 識の下,先進国,途上国双方が歩み寄った結果,引き続き国際的な法的文書のテキス トベースの交渉が継続されることで合意された。

イ)各国のポジション・主張及び提案

WIPOの公開文書(WO/GA/40/7 P5~P8)4に基づいて,遺伝資源に関する議論での各

国のポジション・主張及び提案を要約すると,以下のとおりである。

途上国:

アフリカクループを代表して,南アフリカの代表団は,遺伝資源の交渉を速めるこ とがなく,最終的な決定のないまま,委員会が貴重な時間を費やして,目標と原則を

強調するだけに留まっていると発言し,委員会に対して,GR の保護のために適切な

メカニズムを決定するよう求めた。

また,アクセス及び利益配分(ABS)に関する生物多様性条約(CBD)名古屋議定書の

交渉を進めるために,知的財産(IP)情報とアドバイスの提供においてWIPOが果たし

た役割を認め,名古屋議定書の履行に向けて,WIPO は,CBD 事務局と協力して,

各国の政府組織と連携して,TK,TCEとGRの保護を促進するよう求めた。

ブラジルの代表は,GR の交渉が遅れているとの南アフリカ代表の発言に同意し,

委員会のマンデートを更新する間に,この特定の問題に対し,効果的な作業プログラ ムを開発して,特別な配慮を払うよう求めた。

イラン代表団は,TK,TCEとGRの保護という目標を実現するために,唯一の道

は国際的制度の創設であると認識し,これまでの重要な事例を基にして,知的財産権

を保護する体制づくりに活かし,TK,TCEとGRの商業化と保有者の利益のために,

集団あるいは個人の権利を管理する持続可能な基礎の確立を期待すると発言した。

トゥパク・アマル(Tupaj Amaru)の代表は,「ネオリベラル主義による開発で,先住

民がGRとTKの破壊に直面している。先住民は,自分たちの全体的な利益を守るた

めに,従来と違う方法の開発を望む。」と発言した。

先進国:

Bクループを代表して,米国代表は,TK,TCE,GRに関するこの議論が,WIPO

の検討作業におけるメインストリームの進展に大きな貢献をしたことを述べた。これ

(28)

までの2年の間に,TKとTCEのための実質的な条文に対するオプションと,GRの ための原則と目的に対するオプションが明らかにされてきたが,この進展にもかかわ らず,総会において,根拠に基づいた検討を行うために十分なテキストを提供するた めには,更なる政策的な熟考と合意形成が求められると述べた。

欧州連合(EU)とその27加盟国の代表は,委員会の最新マンデートがTK,TCEと

GRの保護に関するプロセスを速めることで一致していると発言した。

日本代表は,米国代表団の発言を支持し,すべての結果に対し,先入観に影響され

なく,TK,TCEとGRの保護に関するプロセスを進めるために,更なる努力が必要

であると付け加えた。

(2)一般総会(2011年9月)

ア)会議の概要5

2011年9月26日から10月5日まで,スイス・ジュネーブ のジュネーブ国際会議

場で第49回WIPO一般総会が開催され,184の加盟国,その他多数の政府間機関(IGO),

非政府機関(NGO)が参加する中で,第19回IGCにおいて合意されたとおり,IGCの

マンデート延長が承認され,次期会計年度に4回のIGCを開催し,2012年の総会ま

でにテーマ別に,GR,TK,TCE/Folkloreの順でIGCを合計3回開催すること,2012

年の総会では,GR・TK・TCE/Folkloreの効果的な保護を確保するための国際的な法

的文書のテキストの合意に向けた議論の進捗について現状評価を行い,外交会議の開

催について決定することとされた。なお,途上国は,2012年のIGCで議論を進めて,

外交会議を開催することが2012年の一般総会で決定されることを期待するとした。

イ)マンデートの更新案について6

第 49 回一般総会では,加盟各国及びオブザーバーからの一般演説の後,WIPO の

各委員会等からの報告事項等,計45の議題について審議が行われ,2012/13年度計画

予算,IGCのマンデート更新など諸々の重要事項について決定がなされた。

マンデートの更新案については,特段問題なく,決定された(下記の概要参照)。同

マンデートにしたがって,2012年には,テーマごとに3回のIGCが開催され,2012

年2月にはGRをテーマとした第20回会合が開催された。

【マンデート更新案の概要】

・国際的な法的文書のテキストの合意を目的としたテキストベースの交渉を促進する。

5 特許庁の公表資料「2011年世界知的所有権機関(WIPO)加盟国総会の結果概要」を引用して構成し,補足を 付け加えたものである。http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/wipo2011.htm(最終アクセス日:

2013年2月27日)

6 WIPO General Assembly Fortieth (20th Ordinary) Session Geneva, September 26 to October 5

2011(WO/GA/40/7)を引用して,補足を付け加えたものである。

http://www.wipo.int/edocs/mdocs/govbody/en/wo_ga_40/wo_ga_40_7.pdf(最終アクセス日:2013年2月27

(29)

・次期マンデートの2年間に,4回の会合を開催(3回は以下のとおりテーマ別)

第20回 遺伝資源(8日間)

第21回 伝統的知識(5日間)

第22回 伝統的文化表現(5日間)

・テキストベースの交渉は,全てのWIPO作業文書をもとに行う。

・2012年の総会に国際的な法的文書のテキストを提出する。

・2012年の総会で現状評価,外交会議の開催と追加会合の必要性について検討する。

(3)IGC第20回会合(2012年2月)

ア)会議の概要7

IGCの交渉において数多くの提案を一つのテキストに統合するとの議長の姿勢のも

と,ファシリテータープロセスを経て「目的,原則,将来の作業のオプション,実体

条項」が統合された単一テキスト(WIPO/GRTKF/IC/23/4)8が作成された..

この「単一テキスト」は,依然として成熟とは程遠い状況であると言える。同文書

は,2012年の総会へ提出され,審議されることになっていた。また,同会合において,

カナダ,日本,ノルウェー,韓国及び米国の代表団は,「遺伝資源及び関連する伝統的

知識に関する共同勧告」(WIPO/GRTKF/IC/20/9 REV)9を提出した。さらに,日本が

提案したデータベースの実現可能性調査や出所開示要件の義務化について,導入済み

の国々における実施状況の実態調査を行うべきと提案した。しかし,委員会は,GR

に関するテーマを扱う次回のIGC会合に本提案を再提出するよう勧めた。

イ)各国のポジション・主張及び提案10

遺伝資源に関する最大の論点は,出所開示要件の義務化である。途上国は,一貫し て特許出願時における遺伝資源の出所情報の特許出願への記載義務化の導入を強く求 め,遺伝資源,及びその原産国等を開示すべき情報とし,不開示・虚偽の記載に対し ては特許出願の却下・特許の無効等の制裁を課すべきとしている。これに対し,日本 をはじめとする先進国は,遺伝資源の出所情報は特許性とは関連ない情報であって, その開示義務化はいわば特許制度の守備範囲を超えた要求であり,特許制度の枠内で

の制裁を伴う開示義務は導入すべきでないとしている。なお,先進国の中でも,EU,

スイス,ノルウェーは,出所開示自体は受け入れても差し支えないとの立場である。 ただし,出所情報の誤りや不足に対する制裁は特許制度の枠外でなされる。

7 特許庁の公表資料「第5 国際知的財産交渉の諸フォーラムにおける動向」P151P155を引用して構成 し,補足を付け加えたものである。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/tripschousahoukoku/23_5.pdf(最終アクセス日:2013年2

月27日)

(30)

IGC第 20 回会合における各国の主張を,報告書の草案(WIPO/GRTKF/IC/20/10 PROV2 AGEND A ITEM 7 P15~P45)11より,抜粋する。

先進国:

米国の代表は,次のように述べた。すなわち,特許庁では,審査官が先行技術と既

存GRに関する知識に基づいて,適切に特許付与を決定する必要がある。このために,

必要な情報がなければならない。明らかに,特許は,新しい発明に対して,その進歩 性を有し,有用性の標準を満たすことで,特許権を付与することができる。特許は, 真の発明者に与えられなければならない。パブリックドメインあるいは個人又は会社 の特許は,他の会社又は個人が特許を取得することはできない。最終的に,特許制度

を通して,持続的な技術革新を奨励することを最大の目的としている。「単一テキスト」

の「目的」と「原則」に関するテキスト交渉における文言の合意を期待する。

EU代表は,IGCのマンデートについて「単一テキスト」に言及することはなく,

次のように述べた。すなわち,ファシリテーターによって条約の草案が作成されるこ

とを避けるために,米国が提供したガイダンスを支持する。また,「特許出願における

GR と関連するTKの利用」について,特許出願は,国内法令のすべての関連した側

面に対応しなければならない。したがって,国内法令を超えて,特別に強調する又は

優先させることは必要がなく,EU代表としては,PICとMATの文言をテキストか

ら取り除かなければならないと考える。

日本は,次のように述べた。すなわち,文書(WIPO/GRTKF/IC/20/INF/11)12に記載

されているように,TRIPS協定とCBDの関係を議論するとき,①誤った特許の付与と

②CBDの遵守との区別に留意する必要がある。誤った特許付与については,GR又は

関連するTKのデータベースを改善することができれば,先行技術調査又は特定の既存

のシステム(例えば情報提供や無効審判等)を効果的に利用することができると説明し

た。

途上国:

中国代表は,次のように述べた。すなわち,特許出願におけるGRの出所開示を包

含することができる既存のIPシステムをさらに改善すると,CBDと結びつけること

ができ,ひいては,GR の利用から生じる利益共有の実現を容易にすることに貢献で

きると考える。

ボリビア代表は,WHOと名古屋議定書に関する交渉において,資本主義の拡大か

ら生命と自然の重要な分野を守ることを約束した。自然が我が家であるというモット ーに,自然は,価格を付けられないほど潜在的な価値を有する。したがって,自然を 私利と商業に利用され,異常気象まで発生することは,先住民の利益に反することで

ある。特許制度は,生命と自然を私利又は商業に利用するメカニズムである。IPシス

テムは,GRの商業目的のため,バイオパイラシーを促進した。

(31)

ブラジル代表は,次のように述べた。すなわち,防御的な保護とデータベースは補

完的な手段としてのオプションである。ABS,CBDに基づくPICとMATと名古屋

議定書を促進することは,国際的枠組みの中で,出所開示要件に関する義務と制裁を

不要にすることではない。また,CBDと名古屋議定書に基づいたABSクリアニング

ハウス・メカニズムの設立についても言及した。

2012年2月21日に行われたセッションにおいて,多くの先住民代表が,特に「本

件プロセスに関しての我々の参加の量とレベルの継続的減少」に言及し,先住民の参 加者がプロセスへの効率的な参加を拡大するための提案を行った。

(4)一般総会(2012年10月)

ア)会議の概要13

第50回WIPO一般総会は,2012年10月1日から9日まで,ジュネーブにおいて

開催された。総会は,2013年に向けたIGCの作業計画を承認するとともに,GR,TK

及び TCE/Folklore の効果的な保護を確保するために,今後も集中交渉を継続してい

くことを合意した。

IGCは,2013年には,GR,TK,TCEの順番で順次取り組む3つのテーマ別IGC

セッション(GR及びTKについては各5日間)を通じてIGCの作業を行い,GR,TK,

TCEの効果的な保護を確保する国際法的文書のテキストを2013年総会に提出するこ

とを要請されている。2013年総会では,このテキスト,進捗状況を評価・考察した上

で,外交会議の開催を決定することとなる。

また,GRに関するテキストを1つにまとめ,TK及びTCEに関するテキストをさ

らに発展させるために,これまで,IGCによって相当量の作業が成し遂げられたこと

を多数の代表団が認めた。しかし,多数の代表団は,残余の相違点を埋めるためIGC

の交渉を強化することを求めた。一部の代表団は,IGC 議長である Wayne McCook

大使(ジャマイカ寿府代大使)に対し,主要な未決定事項の収束を図るための非公式協

議を開催し,こうした協議の結果を IGCに提出するよう要請した。この要請を受け,

会期中に2回の非公式協議が開催された。2013年に向けたIGCの作業計画において,

GRに重点を置くIGCの次回会合(第23回会合)は2013年2月に開催することが決定

された。

イ)各国のポジション・主張及び提案14

総会直前の2012年7月に開催されIGC第22回会合における各国の主張を,報告

書の草案(WIPO/GRTKF/IC/22/6Prov2)より抜粋する。

13【プレスリリース】WIPO総会,新国際条約のためのロードマップに合意」を引用して構成し,補足を付 け加えたものである。http://www.wipo.int/about-wipo/ja/offices/japan/news/2012/news_0052.html(最終アク セス日:2013年2月27日)

14 http://www.wipo.int/edocs/mdocs/govbody/en/wo_ga_41/wo_ga_41_15.pdf(最終アクセス日:20132

(32)

開発アジェンダグループの代表としてブラジルは,GR,TKとTCEの盗用から効 果的保護を提供する際に法的拘束力がある条約の採択が重要であると説明した。

GR,TKとTCEの保護と持続的な利用の観点から,国際的な規則とその義務の遵

守を確立することによって,CBDとGRへのアクセス及びその利用から生ずる利益の

公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書の原則と目的を実現することは保証される。

効果的にその結果を得られるように,WIPO加盟国間のコミットメントの違いに関す

る交渉は受け入れることができないと強調した。

途上国:

アフリカグループの代表として南アフリカは,過去の10年間において技術的な作業

と議論をすでに尽くしていると発言した。残りのIGCの仕事は,すべての加盟国の政

治的決意であるとし,各加盟国に対し,IGCの結論を承諾するように勧めた。

アジアグループの代表としてイランは,GR,TKとTCE を豊富に有する発展途上

国において,国内及び国際的にそれらの資源を保護するために,各国の国内の制度と

協調できる法制度作りに対して,WIPOからの技術的な援助が必要であると指摘した。

インド代表は,発展途上国代表のブラジルとアジアグループ代表のイランの発言を

支持した。IGCに対して,GR,TKとTCEの保護を加速しなければならないと提案

した。

先進国:

EU 加盟国の代表としてEU は,すべての合意された文書は,柔軟かつ明確で,拘

束力を有しないことを発言した。

イタリア代表は,知的財産権に関する国際条約に対し,柔軟に義務を果たすことと 同時に,国際的な理解を得るために,広範囲に交渉を続けることは重要であると指摘 した。

さらに,米国代表は,GR,TKとTCEに対して,IGCの交渉において,フレキシ

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